パニック障害が不安神経症に
2016/08/02
パニック障害がお薬である程度改善された後も、不安感や動悸などの症状が長く続き
不安定な心身の状態で悩まされている方はけっこう多くいらっしゃるように思います
。
40代 女性
10年前に自動車の運転中に突然パニック発作を発症し、心療内科で薬物治療を受
けられました。
当初の強い症状は徐々に緩和されて行きましたが、パニック発作の再発に対する心配
や、特に何に対してと言うのではなく常に不安感が生活に伴うようになり、動悸や頻
脈・血圧上昇・息切れ、不眠、肩こりなどのいろんな症状に悩まされるようになった
とのこと。
脈を診てみるとやや速く打つ数脈(さくみゃく)で力が不足している印象でした。
腹部にも力が無くみぞおちの部分に冷えがありました。
肩こりが強く、特に左側の肩はぱんぱんに張って肩甲骨の動きも悪い状態です。
全身の経絡(けいらく)の状態を触れて観察してみると、膝から下の足の陽明胃経
(ようめいいけい)が強く緊張していて突っ張った感じになっていました。
足の陽明胃経は、足の太陰脾経(たいいんひけい)とともに飲食物の消化吸収を司り
、心身のエネルギーを生み出す働きをしていますが、精神的なことにも大きく関係し
ている経絡です。
不安神経症や鬱の傾向のある方では、この陽明胃経の緊張がよくみられます。
治療は全体的なエネルギー不足を解消する目的で、テイ鍼を用いて胃腸に関わる脾
と腎の気を増やすように施術しました。
テイ鍼とは、経絡治療で用いる鍼の一つで、ツボに接触させるだけで効果を上げるこ
とができます。
不安神経症や鬱症では脾の気を増やしてやることで症状の改善がみられることが多
いです。
脾像は、論理的な思考を司っていて、この脾の気が不足するとくよくよ考えたり堂々
巡りの思考パターンに陥ったりします。
また脾の気を増やす時には、心包(しんぽう)の気を同時に増やすようにしますが、
この心包の気を増やすことによって喜びの感情が芽生えるようになってゆきます。
合わせて恐怖心や不安に関係する腎の経絡をともに調整し、陽明胃経の気の滞りを流
すようにしました。
詳しくお話を聴かせていただいたところ、毎日ご自分の脈拍数を診ておられることが
わかりました。
どうしても気になることはわかりますが、そのような行動自体が症状の悪化や固定化
を促していることを説明して、脈拍数を数えることは止めていただくようにアドバイ
スさせていただきました。
このような治療を週に一度のペースで行ったところ、初回の治療からかなりの改善
がみられました。
通常このような精神的な症状が中心の場合にはある程度の治療の積み重ねが必要だと
考えていますが、本症例のように初回から諸症状が改善されて、以後5ヶ月を経過し
た時点でも精神的にも肉体的にも安定した元気な生活をおくっておられます。
長年鍼灸の臨床をしていても、本症例のように数年来の不調が一度の鍼灸治療で解消
されるようなことは希だと思いますが、時にそのような事に出会います。
そんな時には、東洋医学・鍼灸のすばらしさを再確認させられます。