刺さない鍼「接触鍼」
当院では、ほとんどが刺さない鍼(肌に鍼を触れるだけ)「接触鍼」による施術です。
【てい鍼】や【ざん鍼】など、鍼先が尖っておらずソフトな接触ができるものを使用します。
鍼による痛みは全く無いので、鍼は受けたいが痛そうで怖い…という人にも最適です。むしろ心地よい爽快感が得られるものなのです。
なぜ刺さなくて鍼が効くのか?患者さんから尋ねられることも多いのですが、私は「生体電気を整える働きがある」と考えています。
接触鍼の理論的なバックボーンとして、ドナルドキーオン著書の「閃く経絡」があります。
「経絡はファシア(Fascia)という筋膜などの膜組織であり、この膜はコラーゲンでできていて、これに微弱な電流が流れている」と記載されています。
※ファシア(Fascia)とは「膜」のことであり、臓器、骨、筋肉、脂肪、靭帯、血管、神経などの組織を覆う膜の総称です。
「筋膜」もファシアの一つです。
これにヒントを得て、生体電気による鍼灸施術の理論ができました。
チタンなど金属製の鍼をツボに触れることで病的な生体電気を整え、経絡の働きを調整することができます。
刺さない鍼に適した症状
東洋医学には【気の病】という捉え方があります。
【気の病】とは主に機能的、つまり働きの不具合が生じている状態を意味します。自律神経失調症やメンタルの不調などです。
刺さない鍼(接触鍼)は【気の病】を整える治療に最適です。
自律神経の乱れによる不定愁訴やメンタル症状には、むしろ刺さない接触鍼の方が適しており速やかに効果が得られると考えています。
臓腑経絡では、気の滑らかな運行をコントロールしているのは肝臓に相当します。
これを「肝の疏泄(そせつ)機能」と言いますが、鍼灸治療ではこの肝気を調節して全身の気の流れを滑らかにすることができます。
加えて気の流れそのものを活発にする肺臓の昨日を高めることで、心身の様々な不調を速やかに改善することができるのです。
皮膚への接触刺激とは
皮膚に触れることで心身を癒す手技というのは、古来より世界中さまざまな文化で行われてきました。
ギリシャの聖医ヒッポクラテスも触れて病を治したとされ、エジプトの壁画にも触れて病を治す場面が描かれていたり、中国の黄帝内経にも接触鍼によ
る治療の記述があります。
接触鍼で触れる皮膚の浅い部分というのは交感神経が優位に働いており、経絡治療によるソフトな鍼施術によって交感神経の過緊張が収まり、心地よい感覚が得られ心身をリラックスモードに導きます。皮膚に対して施術する経絡治療には、心の疲れを取り癒やす効果があります。
科学的には、脳の疲れを取り心を癒やすホルモンのオキシトシンが皮膚からも分泌されていることが近年注目されています。
オキシトシンは愛情ホルモンとも呼ばれて、私たちの心身にとって大きな健康効果をもたらします。
肌に軽い刺激を与えることで、肌内部のオキシトシン分泌が増加することが発見されていますが、皮膚に対する心地よい刺激によって皮膚からも分泌されることがわかり、この皮膚由来のオキシトシンには皮膚そのものの再生を促す働きがあります。
また、顔の接触刺激によってセロトニンの分泌が促進され、加えて前頭葉の血流も活発になることがわかってきました。美容目的以外でもメンタルケアの観点から、当院でも顔の施術は積極的に行っています。また頚肩部ではリンパの流れを意識した施術方法を取り入れており、リンパケアの美容効果も出るようになっています。
これに加えて当院で導入しているポリヴェーガル理論では、腹側迷走神経複合体が十分に働けば、心身ともに健康な状態が得られるとしています。
副交感神経である腹側迷走神経が活発に働くようになると、身体も心も良好な状態になり顔の表情も穏やかで豊かになり、声も通り韻律に富んだ話し方ができるようになります。真の意味での美容とアンチエイジングに繋がります。
接触鍼によるメンタル治療は、これからの鍼灸の大きな可能性を教えてくれています。